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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)1053号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔争点〕本件は、使用貸借の契約終了に基づき、土地の返還を求めた事件である。右使用貸借契約が締結された昭和二三年一月前後の頃、原、被告は、原告(会社)の代表取締役又は取締役が被告(会社)の代表取締役を兼任するという、いわゆる姉妹会社関係にあり、被告は、原告所有の建物の四階を営業所として賃借使用していたが、原告は右建物及びその敷地を第三者に売却するため、被告に対しその立退先として本件土地を、建物所有及び右建物における営業をその使用目的として、使用貸借契約が締結されたという、いきさつがあつた。

原告は次のような主張をした。(一)右姉妹会社関係は昭和二七年六月四日断絶するに至つたから、本件使用貸借はその基礎が消滅したことにより、同日限り当然終了した。(二)本件使用貸借は返還の時期の定めがないから、昭和三二年一二月九日被告に対し解約告知をしたことにより、終了した。(三)本件使用貸借は被告が他に適当な土地建物を見つけるまでの一時的な使用を目的としたものであるところ、適当な土地建物を見つけるのに社会通念上必要とされる二年ないし五年の日時が経過したときは約定の目的に従つた本件土地の使用及び収益をするに足るべき期間が経過したものというべきであり、その経過後にした右解約告知により本件使用貸借は終了した。(四)被告は昭和三八年八月にビルを建築したことにより、本件土地における営業所の移転先が確保されたことになり、本件使用貸借はその使用収益目的が消滅したことにより、同年八月限り当然に終了した。

これに対し本判決は、(一)いわゆる姉妹会社関係が断絶しても、これをもつて使用貸借が当然に終了するとはいえない。(二)本件使用貸借は使用目的が定められているから、いつでも解約できるとはいえない、という判示に続き、(三)約定目的に従い被告が本件土地の使用をなすに足るべき期間が経過したときは解約告知はできるものとし、おそくとも本件口頭弁論終結時には右期間が経過したものとした上、最終口頭弁論期日に原告の解約告知がなされたものと解したが、(四)後記のような事情を考慮し、被告の権利濫用の抗弁を容れて、右解約告知は無効である旨判示した。

〔判決理由〕三、(使用貸借は終了したか否か)

(一) ≪証拠略≫を総合すると次の事実が認められる。

被告(当時板谷生命保険株式会社)は指定時の昭和二一年八月一一日をもつて、その資産を旧勘定と新勘定とに区分され、それ以来被告は平和生命保険株式会社として営業をし、昭和二三年三月三一日新旧勘定が併合された。その頃亡板谷宮吉は被告の代表取締役及び取締役を退任し、佐藤知信等が代表取締役に就任し、同人等が退任した後昭和二九年六月一九日武元忠義が被告の代表取締役に就任し、間もなく小川吉久は被告の取締役を退任した。ここに双方間の取締役共通関係は断絶するに至つた。昭和三一年五月頃原告代表取締役亡板谷宮吉は、被告に対し本件土地を代金坪当り五万円で買取るよう申入れ、その後双方間に売買交渉が重ねられていたが、原告は昭和三二年四月三日付書面で被告に対し現在の時価で本件土地を買取るよう申入れ、これに対し被告は同月一〇日付書面で、互譲により時価を基準とし従来の双方間の事情を参酌した価額で買受けたい旨答え、売買成立の見込がなくなり、前記のように原告は同年一二月九日送達の書面で解約告知をした、そして原告はその後同月中大阪簡易裁判所に対し調停の申立をしたが、昭和三五年四月九日調停不成立に帰したことが認められる(右解約告知の事実は当事者間に争がない。)。

以上の事実が認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)(1) 原告は双方間の取締役共通関係の断絶と同時に本件使用貸借は当然終了したと主張するので考えてみる。使用貸借は無償契約一般と同様に契約当事者間の経済外的な特殊=人的の恒常的関係ないし緊密関係を基礎とするものではあるけれども、それは使用貸借契約の効果(借主の返還義務等)と直接、法的に結合されていない。恒常的関係を基礎ないし動機として、使用収益の具体的目的が、当該使用貸借契約において、約定されるのであつて、約定された当該目的が到達された場合は当然に、当該目的が通常到達され得べき時期到来の場合は解約告知によつて、それぞれ使用貸借は終了するものと民法は規定した(五九七条二項本文、同ただし書)。契約当事者間の恒常的関係は、当該目的、その到達時期等についての契約解釈の資料・基準の一つとして参酌されるにとどまるのであつて、恒常的関係断絶をもつて使用貸借終了の当然の原因と解することはできない。前認定によると、亡板谷宮吉等が双方間の取締役を兼任し、板谷は被告の株式のほとんど全部を保有していたが、武元忠義が昭和二九年一月中被告の代表取締役に就任するに及んで、双方間の取締役共通関係が断絶するに至つたことが認められるけれども、このようないわゆる人的・恒常的関係の断施が使用貸借終了原因となるものではないことは、前述したところである。原告の右主張は採用できない。

(2) 原告は、本件使用貸借は返還の時期の定めがないものであるから、いつでもこれを解約し得るものであると主張するけれども、前認定のように本件使用貸借契約において、双方は本件土地使用の目的を定めているのであるから、いつでもこれを解約することができるものではないといわねばならない。原告の右主張は採用できない。

(3) 原告は、本件使用貸借契約に定める目的に従い本件土地の使用収益を為すに足るべき期間を経過したから、前記解約告知によつて、本件使用貸借は終了したと主張するので考えてみる。本件使用貸借契約において、双方が被告の本件建物所有及び本件建物における営業を、本件土地使用の具体的目的と定めたことは、前記認定によつて明らかである。しかし、そうだからといつて、前記のような双方間の人的・恒常的関係断絶の後、本件建物の朽廃に至るまで、本件土地使用貸借を存続させるべき旨双方が定めたものと解釈するのは相当でない。人的・恒常的関係が断絶した場合、建物所有目的の賃貸借よりも強い効力を、使用貸借に認めることは契約当事者の期待しないところであり、不合理であるからである(これに反して、人的・恒常的関係の存続する場合は、建物所有目的の土地使用貸借は、建物の朽廃に至るまで貸主は解約告知をすることができない。大判昭和一三年三月一〇日法学七巻九五〇頁)。したがつて、本件の場合は、前記約定の目的に従い被告の本件土地使用をなすに足るべき期間を経過したとき、解約告知によつて使用貸借は終了するものと双方が約定したものと解釈すべきである。

前記認定によると、被告は昭和二二年一二月中旬本件建物の建築を完成し、それ以来今日まで一七年余事件土地を使用し、本件建物に被告の「大阪営業部」及び「心斎橋営業部」の営業所を置いていることが認められる。他方、被告が昭和三八年中大阪市東区北浜に鉄筋コンクリート造八階建建物を所有し、その一部に被告の「大阪北営業部」の営業所を置いていることは、被告の明らかに争わないところであるから、被告はこれを自白したものとみなすべきである。

してみると、おそくとも本件口頭弁論終結時の昭和四〇年三月二日においては、被告は本件建物所在地の大阪市南区方面で営業所に供すべき建物を取得所有することは可能となつたというべきである。したがつて、おそくとも前記口頭弁論終結時には、前記約定目的に従い本件土地の使用をなすに足るべき期間はすでに経過したものといわねばならない。そして原告は前記最終口頭弁論期日において、被告に対し本件使用貸借の解約告知をしたものと解することができる。

被告は、右解約告知は権利の濫用に当たると主張するので検討することとする。前記認定によると、原告は昭和二三年二月一〇日柳及び李に対し鰻谷ビル及びその敷地を代金九五〇万円で売渡しており、そのため被告は鰻谷ビルの四階を明渡し、かつ本件建物を建築取得することを余儀なくされて建築費用等計二〇四万三三九五円を昭和二二年一二月までに支払つていることが認められる。≪証拠略≫によると、本件土地使用貸借契約の締結に原告側として関与した小川吉久は、契約締結に当たり、その内心では将来原告は本件土地を被告に賃貸するか又は売渡すべきものと考えていたことが認められる。これ等の諸事実と通常人の期待するところ、すなわち信義則とによつて考察すると、本件では、原告は解約告知をするに当たり、被告に対して本件土地を売渡すかもしくは賃貸するかのいずれについても、従前の関係を参酌した協議を十分に被告との間で行なうべきであり、前記認定の双方間の売買交渉をもつては、未だこのような協議が十分になされたものとはいい難い。又、前記認定の調停手続が行なわれたこと自体をもつては、このような協議が十分になされたものと認めるに足りない。したがつて前記解約告知は信義に反し、権利の濫用に当たる無効のものというほかはない。(山内敏彦 高橋欣一 小田健司)

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